2010年3月30日火曜日

悼む人




私は彼に親友のことを話しました

思い出す限りのことを伝えました

私が話し終えたところで

「いまのお話を胸に

悼ませていただきます」と

彼は先ほどと同じ姿勢で左膝をつき

右手を宙に挙げ

左手を地面すれすれに下ろして

それぞれの場所を流れている風を

自分の胸に運ぶようにしてから

目を閉じました




新聞の訃報記事や雑誌の事件特集や
旅先での会話で聞いた死者の最期の場所を訪ね
その人が生前に誰を愛し 誰に愛され
そして誰から感謝されていたかを
調べて歩く男が主人公
彼の目的はこの世のかけがえのない存在として
故人がいたことを自分の胸にしっかりと刻むこと
携帯した何冊ものノートは
悼んだ人 これから悼む人のデータが
びっしりと書き込まれている

悼む人の生き様と
複雑な思いで彼を遠くから見守る母
記事のネタとして追いかける週刊誌記者
そして悼む人に同行する苦悩の女性
4人の過酷な人生模様を通して
現代における生と死の意味を深く考えさせられる
悼む人の行為はやはり不可解だし
根源的な答えが出るわけではないが
自分なりの考えを読んでるうちに
嫌でもまとめることになる本




























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